インドネシアのヴィラ投資と不動産制度|仕組みとリスク

2026年8月時点の情報です。これは一般的な制度解説であり、法務・税務の助言ではありません。実際に手続きを進める前には、必ずインドネシアの弁護士・公証人(Notaris/PPAT)・税理士にご確認ください。なお本記事の円換算は1ルピア=約0.0089円(2026年8月時点の概算)で計算しています。

「外国人でも簡単にオーナーになれる」「利回り10%」といった宣伝文句を目にすることがあります。しかしその多くは、制度のごく一部だけを切り取ったものです。インドネシアの土地制度は、外国人の権利を明確に制限したうえで、限られた例外を用意するという構造になっています。

この記事では、外国人がインドネシアで不動産を持つ際の正式な仕組みと、そこに伴うリスクを、良い面だけでなく正直にまとめました。ロンボクでの長期滞在・二拠点生活を検討する中で「いっそ物件を持ってしまおうか」と考え始めた方にこそ、行動する前に読んでいただきたい内容です。

この記事でわかること

  • 結論:土地付き物件のHak Milik(所有権)は外国人には原則不可。選択肢はHak Pakai(使用権)・PT PMA名義のHGB(建設権)・区分所有マンションのSHM Sarusun・リースホールドの4つです
  • 各権利の取得可否・期間・更新条件・在留資格(KITAS/KITAP)要件の違い
  • 州ごとに定められた住宅の最低取得価格(西ヌサ・トゥンガラ州の具体的な金額)
  • インドネシア人の名義を借りる「ノミニー」契約が、なぜ裁判で無効とされてきたのか
  • ロンボク特有の土地事情(マンダリカ開発の経緯)と、利回り・出口戦略の現実

最初に、制度の骨格を一言でまとめておきます。ここを取り違えたまま物件探しを始めると、あとから取り返しがつきません。

結論

土地付き物件のHak Milik(所有権)は、外国人には原則として認められません。実務上の選択肢は、①個人でHak Pakai(使用権)を取得する、②PT PMA(外資法人)を設立してHGB(建設権)等で保有する、③HGBまたはHak Pakaiの土地に建つ区分所有マンションをSHM Sarusun(区分所有権)として取得する、④リースホールド(賃借契約)で使用権だけを得る、の4つです。インドネシア人の名義を借りる「ノミニー」契約は、裁判で無効とされた例があり、選ぶべきではありません。

目次

外国人はインドネシアの「土地」を所有できない

インドネシアの土地制度の土台は、1960年制定の基本農業法(UUPA、Undang-Undang Pokok Agraria)です。UUPA第21条は、Hak Milik(所有権)を持てるのはインドネシア国籍を持つ個人と、政府が指定する一部の法人(協同組合など)に限ると定めており、外国籍の個人や外資法人(PT PMA)は土地のHak Milikの主体にはなれないとされています。Hak Milikは期間の定めがなく、相続もできる最も強い権利で、だからこそ国民に限定されています。

この原則は、2020年の雇用創出法(UU 11/2020。憲法裁判所の判断とPerppu 2/2022を経て、現在はUU 6/2023に置き換えられています)とその実施政令である政令第18号(PP 18/2021)による不動産関連制度の改正後も、基本的には変わっていないとされています。ただし、土地ではなく区分所有マンション(rumah susun)については例外があり、これは後ほど詳しく説明します。

「バリでもロンボクでも、外国人がHak Milikの証書を持つ土地付き物件がある」という話を聞くことがありますが、これは後述する名義借り(ノミニー)によって、実質的にはインドネシア人の名義のまま外国人が資金を出しているケースがほとんどです。証書上の名義人はあくまでインドネシア人であり、外国人本人がHak Milikの権利者になっているわけではありません。

外国人が取得できる4つの選択肢|早見比較表

土地付き物件のHak Milikの代わりに、外国人(または外資法人)が取得できる権利は主に4種類あります。まずは早見表で全体像を確認してください。

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選択肢外国人の取得可否権利の期間更新・延長求められる条件
Hak Milik(土地の所有権)原則不可無期限(相続可)該当なしインドネシア国籍が必要
Hak Pakai(使用権)可(個人名義)最大80年(30+20+30年)延長・更新の申請が可能有効な入国管理書類、州ごとの最低価格
HGB(建設権・PT PMA名義)可(法人名義)最大80年(30+20+30年)延長・更新の申請が可能PT PMAの設立・維持(資本金・投資計画額)
SHM Sarusun(区分所有権)可(マンションの1住戸)敷地のHGB/Hak Pakaiの残存期間に連動敷地権の延長・更新に連動HGB/Hak Pakai上の物件であること、最低価格
リースホールド(賃借権)可(契約ベース)契約次第(目安25〜30年とされます)地主との合意次第(法定の更新権なし)契約上は在留資格を問わない

※インドネシア基本農業法(UUPA)、政令第18号(PP 18/2021)、国家土地庁規則第18号(Permen ATR/BPN 18/2021)等にもとづく一般的な整理(2026年8月時点)。リースホールドの年数は法定のものではなく実務上の目安です。個別の要件は物件所在地・時期により異なるため、公証人・弁護士にご確認ください。

Hak Pakai(使用権)は、個人の外国人が住宅用に取得できる権利です。PP 18/2021とその実施規則であるPermen ATR/BPN 18/2021により、初期付与30年、延長20年、更新30年の合計最大80年まで保有できる仕組みに整理されています。土地は国有地の上に設定される場合と、インドネシア人所有者のHak Milikの上に設定される場合があります。

HGB(Hak Guna Bangunan、建設権)は、インドネシア国内で設立された法人が土地の上に建物を建て、使用する権利です。外国人個人はHGBの主体になれませんが、外資法人であるPT PMAは法人としてHGBを取得できるとされています。期間の仕組みはHak Pakaiと同様、初期30年・延長20年・更新30年で最大80年です。

SHM Sarusun(Hak Milik atas Satuan Rumah Susun、区分所有権)は、区分所有マンションの1住戸についての所有権です。PP 18/2021第71条は、外国人が保有できるrumah susunを「国有地・管理権地・私有地の上のHGBまたはHak Pakaiに建てられたもの」に限定しており、この条件を満たす物件であれば、外国人でも住戸そのものについてはHak Milik(区分所有権)を持てるとされています。つまり「外国人はHak Milikを一切持てない」というのは土地についての話で、区分所有建物には例外があるということです。ただし同第72条により、最低価格・面積・保有戸数の上限・住居用途への限定といった制限がかかります。

リースホールド(Hak Sewa、賃借権)は、土地・建物の所有者(多くはインドネシア人)と外国人の間で結ぶ民事上の賃貸借契約です。国家土地庁への登記を伴う「権利」というより契約であるため、期間や更新条件は当事者間の合意次第で、法律上定められた延長・更新の権利があるわけではありません。契約期間は25〜30年に設定される例が多いとされていますが、これは法定の年数ではなくあくまで実務上の目安です。地主が変わる、あるいは相続が発生すると契約の履行が不安定になるリスクがあります。

Hak PakaiとHGBは、いずれも「30年+20年+30年」という3段階で最大80年に達します。期間の感覚をつかんでおくと、出口戦略を考えるときの助けになります。

図:Hak Pakai/HGBの期間は「30+20+30年」で最大80年

Hak Pakai / HGB(最大80年) 初期付与 30年 延長 20年 更新 30年 0年 30年 50年 80年 リースホールド(契約次第・目安25〜30年) 契約期間 25〜30年(目安) この先は地主との合意次第。法定の更新権はありません ※延長・更新はいずれも申請が必要で、自動では継続しません(2026年8月時点)

※PP 18/2021およびPermen ATR/BPN 18/2021にもとづく整理(2026年8月時点)。リースホールドの年数は法定のものではなく実務上の目安です。

在留資格(KITAS/KITAP)と、州ごとの最低取得価格

個人でHak Pakaiを取得する場合、インドネシアに合法的に滞在していることを示す入国管理関連の書類が必要です(PP 18/2021第69条)。取得手続き自体はビザやパスポートなど有効な入国管理書類の提示で足り、その後にKITAS(一時滞在許可)やKITAP(永住許可)の取得へとつながる、という整理になっています。つまり「Hak Pakaiを持てば自動的にビザが得られる」わけではなく、順序としては合法的な滞在資格(または滞在の見込み)があることが前提になります。

そしてもう一つ、見落とされがちなのが最低取得価格の要件です。これはPP 18/2021やPermen ATR/BPN 18/2021ではなく、国家土地庁大臣決定 Kepmen ATR/BPN No.1241/SK-HK.02/IX/2022 の別表で州ごとに定められています。DKIジャカルタは一戸建てRp50億(約4,450万円)、集合住宅Rp30億(約2,670万円)。西ヌサ・トゥンガラ州(ロンボク島を含む)は一戸建てRp30億(約2,670万円)、集合住宅Rp10億(約890万円)以上です。つまりロンボクで正規に取得しようとすると、土地付き住宅なら最低でも2,600万円台の物件からということになります。

法人であるPT PMAを通じてHGBを取得する場合は、個人の在留資格は直接の要件にはならないとされています。ただし後述のとおり、PT PMAの設立・維持には別の要件(資本金・投資計画額など)が課されます。

PT PMA(外資法人)を設立して保有する仕組み

複数の物件をまとめて保有・運営したい場合や、事業として貸別荘業を営みたい場合には、PT PMA(Perseroan Terbatas Penanaman Modal Asing、外資法人)を設立し、法人名義でHGBなどの権利を保有する方法が現実的な選択肢になります。

2025年に投資・下流化省(旧BKPM)の規則が改正され(投資・下流化大臣規則第5号/2025、Perka BKPM 5/2025)、PT PMAの最低払込資本金はRp25億(約2,230万円)となりました。ただしこれは「Rp25億で済む」という意味ではありません。払込資本金Rp25億は定款(Anggaran Dasar)上の要件、KBLI5桁の事業分野×事業所在地ごとの投資計画額Rp100億超(約8,900万円/土地・建物を除く)はOSS上の実現義務であり、両方を満たす必要があります。資本金の引き下げは行政手続き上の緩和にとどまり、投資実現のコミットメント自体は変わっていません。この差額は約7,000万円規模になりますので、資金計画の前提を取り違えないでください。

PT PMAは法人であるため、個人でHak Pakaiを保有する場合には発生しない運営コストがかかります。一律に課されるのは、会計帳簿の作成と年次の税務申告、そしてLKPM(投資活動報告)の定期提出です。一方、外部監査(公認会計士による会計監査)は全社一律ではなく、会社法(UU 40/2007)第68条の基準(資産または売上高がRp500億=約4億4,500万円以上、公衆から資金を集めている、債務証券を発行している、公開会社である等)に該当する場合の義務です。また「現地スタッフの雇用義務」という一般的な義務は存在せず、外国人を雇用する場合にRPTKA(外国人労働者雇用計画)関連の手続きが必要になる、という条件付きの話です。

絶対に避けるべき「名義借り(ノミニー)」契約

インドネシアの不動産市場では、外国人がインドネシア人(多くは配偶者や現地の知人)の名前を借りてHak Milikの証書を取得し、裏で「名義貸し契約書(nominee agreement)」や委任状、借用書などを結ぶ「名義借り(ノミニー)」という方法が長年行われてきました。しかし、これは重大なリスクを伴います。

注意

  • 契約が無効になる:バリ(デンパサール地裁 No.274/Pdt.G/2020 PN Dps 等)で学術的に分析されている事例では、外国人の土地取得を目的とした名義借り契約は「法律の回避を目的とした合意」として無効(batal demi hukum)と判断されています。
  • 権利が一切残らない可能性:契約が無効になると、外国人側が主張できる法的な権利は原則として残らず、名義人であるインドネシア人(またはその相続人)が証書上の所有者としての権利をそのまま持ち続けることになります。資金を実質的に負担していたことの立証や返還請求が認められるかどうかも一律ではないとされています。

つまり、ノミニー契約は「うまくいけば黙認される」類のグレーゾーンではなく、「争いになれば法律上そもそも無効」というリスクを最初から抱えた仕組みです。名義人との関係が良好なうちは問題が表面化しなくても、名義人の離婚・相続・死亡・関係の悪化といった出来事をきっかけに、外国人側が投資額をすべて失う事態が起こりえます。前述のHak Pakai・PT PMA・SHM Sarusunという正規の仕組みが存在する以上、ノミニーを選ぶ積極的な理由はありません。

資金の出し方3パターン|権利の所在とリスクの違い

図:資金の出し方3パターン別の権利の所在とリスク

外国人(投資家) 個人名義で取得 出資して法人化 資金だけ提供 ① 個人でHak Pakai (使用権)を取得 権利の名義: 外国人本人 (入国管理書類が必要) 外国人の立場: 土地の直接の権利者 リスクの所在: 更新・在留資格の 維持を自分で管理 ② PT PMA (外資法人)を設立 権利の名義: PT PMA(法人) 外国人の立場: 出資者(株主)として 間接的に保有 リスクの所在: 資本金・投資計画額と 維持費を法人が負担 ③ 名義借り (ノミニー)⚠要注意 権利の名義: インドネシア人の 名義人(第三者) 外国人の立場: 資金提供者にすぎず 法的な権利なし リスクの所在: 契約無効化で 投資額を全額喪失

※名義借り(ノミニー)契約は、バリの裁判例をもとにした学術的分析で無効と整理されています(2026年8月時点)。詳しくは前項をご覧ください。

上の図は、資金の出し方によって、権利が誰の名義になり、リスクを誰が負うのかを整理したものです。個人でHak Pakaiを取得する場合もPT PMAを設立する場合も、権利者は外国人本人、または外国人が出資する法人です。一方、名義借りでは、証書上の権利者は外国人とは別のインドネシア人であり、外国人はその人に資金を託しているだけの立場にとどまります。この違いが、契約が無効とされたときの結果の重さを決定的に分けます。

購入時・保有時にかかる税金

不動産の取得・保有には、次のような税金がかかります。金額の計算方法や税率は改正される可能性があるため、実際の申告前には必ず税理士・公証人に最新の税率をご確認ください。

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場面税目目安税率負担者
購入時BPHTB(土地建物取得税)取得価額の5%(地域ごとの非課税枠を差し引いた額に対して)買主
購入時PPh(譲渡所得税・最終課税)譲渡価額の2.5%売主
保有時(毎年)PBB(固定資産税)地方税・地方賦課金法(UU 1/2022)第41条により上限0.5%。実際の税率は県・市の条例で決まります所有者
賃貸事業を行う場合法人税・付加価値税(PPN)等事業形態・登録区分により異なりますPT PMA等の事業主体

※BPHTB・PPhは財務省・国税総局の一般的な水準、PBBはUU 1/2022第41条にもとづく上限(2026年8月時点)。PBBの実際の税率・非課税枠(NJOPTKPは納税者1人あたり最低Rp1,000万=約8万9,000円)は西ヌサ・トゥンガラ州およびロンボク・バラット県の条例により異なります。

このほか、AJB(売買証書)作成にあたる公証人(Notaris/PPAT)への報酬(一般に取引額の1%前後が目安とされますが交渉次第です)、PT PMAを設立する場合はその設立費用・年間の記帳や税務申告を委託する費用も、投資計画に加えて考える必要があります。

公証人(Notaris/PPAT)の役割と土地証書の確認

インドネシアの不動産取引では、Notaris(公証人)とPPAT(Pejabat Pembuat Akta Tanah、土地証書作成官)が中心的な役割を担います。多くの場合、この2つの資格は同一人物が兼務しています。PPATは、売買契約の内容を「AJB(Akta Jual Beli、売買証書)」という正式な証書として作成し、これをもとに国家土地庁(BPN)で名義変更の登記手続きを進めます。AJBの作成とBPNでの登記が完了して初めて、権利の移転が法的に成立します。

POINT

物件の売主が紹介してくる公証人をそのまま使うのではなく、買主側が独立した公証人・弁護士を別に選び、セカンドオピニオンとしてデューデリジェンスを依頼することをおすすめします。売主側の公証人だけに頼ると、確認すべき点を確認しないまま契約に進んでしまうリスクがあります。

契約前に必ず確認すべきなのが、土地証書(sertifikat)の内容です。証書に記載された名義・面積・境界が実際の物件と一致しているか、抵当権などの担保が設定されていないか、二重に証書が発行されている「サーティフィカット・ガンダ(sertifikat ganda)」の状態になっていないかを、BPNの窓口またはオンラインサービスを通じて確認します。特に地方部では、証書のないgirik(慣習地台帳)や村レベルの書類のまま取引されている土地も存在し、これらは正式な証書(SHM等)に転換されていない限り、外国人がHak Pakaiを設定する土台として使えません。証書の確認を省略した「言い値」での取引には応じないことが、最初の防衛線になります。

図:物件取得までの一般的な流れ

1

公証人(Notaris/PPAT)・弁護士に相談

売主側とは別に、買主側で独立した専門家を選びます。

2

土地証書のデューデリジェンス

BPNで名義・境界・担保の有無、二重証書でないかを確認します。

3

保有スキームの決定

Hak Pakai/PT PMA設立/SHM Sarusun/リースホールドから選びます。

4

AJB(売買証書)の作成・署名、税金の納付

BPHTB(買主負担)・PPh(売主負担)を納付します。

5

BPNでの名義変更登記・証書受領

登記が完了して初めて権利の移転が法的に成立します。

ロンボクならではの事情|マンダリカ開発と権利関係が不明瞭な土地

ロンボク島南部のクタ・ロンボク周辺では、政府系企業ITDC(インドネシア観光開発公社)が主導する大規模観光開発「マンダリカ」が進められています。この開発をめぐっては、土地収用の進め方について国内外から懸念が示されてきた経緯があります。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2021年3月、特別報告者らの見解として、マンダリカ地区で住民が脅迫を受け補償なく強制立ち退きさせられた疑いがあり、ITDCが補償や土地紛争の解決を行っていないと指摘するプレスリリースを公表しました。補償額については、国連の極度の貧困と人権に関する特別報告者オリヴィエ・デ・シュッター氏の2022年3月8日付書簡(同年5月11日公表)をめぐる報道で、土地を占有していた121世帯に対する提示額が1世帯Rp1,000万(約8万9,000円/当時の報道では約680米ドル)、土地を耕作していた96人には1平方メートルあたりRp450万(約4万円)、漁業者には家屋1軒あたりRp300万(約2万7,000円)とされ、特別報告者はこれを被害に見合わないと指摘した、と報じられています。

この問題は過去のものではありません。OHCHRは2025年8月22日にも、2025年7月15〜17日にタンジュン・アーン地区で186の地元事業者が強制的に立ち退かせられ、2,000人以上(多くはササクの人々)が生計手段を失ったとして、強制立ち退きの停止を求める専門家声明を発表しています。

こうした経緯があるエリアでは、開発が進むほど地価が上昇する一方で、土地の権利関係そのものが係争中、あるいは補償・移転の手続きが完全には終わっていない区画が残っている可能性があります。「マンダリカ開発区域に近い」という立地の魅力だけで判断せず、対象の土地がどのような経緯で現在の権利者に渡ったのか、収用や係争の対象になっていないかを、公証人・弁護士を通じて個別に確認することが欠かせません。

マンダリカ周辺に限らず、ロンボク島全体でも、都市部から離れた集落では土地が正式な証書化(sertifikat化)を経ないまま、家族間の慣習的な取り決めだけで受け継がれているケースが少なくないとされています。セコトンを含むロンボク島南西部でも同様の状況がありうるとされており、購入や長期の賃借を検討する際は、対象の土地が正式なBPN証書を持つ状態かどうかを、必ずご自身で確認する必要があります。ロンボク島完全ガイドセコトン完全ガイドもあわせてご覧いただくと、エリアごとの状況を把握しやすくなります。

利回りの現実|表面利回りと実質、稼働率、出口戦略

ヴィラ投資の宣伝では、高い「表面利回り」の数字が示されることがあります。しかし、表面利回り(年間の想定賃料収入÷物件価格)と、そこから管理委託費・維持修繕費・税金・空室(低稼働率)分を差し引いた実質の利回りとの間には、相応の差が生じるのが一般的です。主な差の要因は次のとおりです。

  • 管理委託費:ヴィラを短期貸別荘として運営委託する場合、管理会社に売上の一定割合を支払う契約が一般的です。料率は管理会社・契約内容により異なるため、契約前に必ず条件を確認してください。
  • 稼働率:想定される稼働率は、周辺の知名度や競合物件数、季節(乾季・雨季)によって大きく変わります。バリ島の人気エリアと、まだ観光地としての知名度が低いロンボクやセコトンのようなエリアでは、稼働率の前提が同じにはなりません。
  • 維持修繕費:熱帯気候特有の劣化(塩害・湿気・虫害)により、想定より早いペースで修繕が必要になることがあります。

出口戦略についても、正直な難しさがあります。Hak PakaiやHGBは期間が定まった権利であるため、保有期間が経過するほど残存期間は短くなり、次の買主も外国人であれば同様の在留資格や法人要件を満たす必要があります。リースホールドの場合は、地主の同意なしに契約上の地位を第三者へ譲渡できない場合もあります。結果として、買い手の母集団は自由所有(フリーホールド)の不動産市場に比べて限られ、売却までに時間がかかりやすく、価格交渉力が弱くなりやすいという流動性の低さが、この投資形態にはつきまといます。

注意|必ず理解しておきたい4つのリスク

  • 制度変更:不動産関連の政令・大臣決定は複数回改正されており(PP 18/2021、Kepmen ATR/BPN 1241/2022、Perka BKPM 5/2025 など)、権利の期間・価格要件・手続きは今後も変わる可能性があります。
  • 名義借りの無効化:ノミニー契約は裁判で無効とされる可能性があり、無効になれば投資額を回収できないおそれがあります。
  • 土地の権利紛争:証書が不明瞭な土地や、収用・係争の経緯がある土地を購入すると、権利が確定しないまま争いに巻き込まれる可能性があります。
  • 流動性の低さ:買い手の母集団が限られるため、売却までに時間がかかりやすく、価格交渉力も弱くなりがちです。

よくある質問|インドネシア不動産の疑問

よくある質問

Q. 配偶者がインドネシア人の場合、名義を借りても問題ないですか?

配偶者名義であっても、実質的に外国人側の資金のみで取得し、外国人が使用・処分を支配する実態があれば、名義借りと同様の無効リスクを負う可能性があります。婚前契約(プレナップ)の有無や財産の扱いは個別の事情によるため、必ず弁護士にご相談ください。

Q. 外国人がマンションなら「所有」できるというのは本当ですか?

条件付きで本当です。PP 18/2021第71条により、HGBまたはHak Pakaiの土地に建てられた区分所有マンションであれば、外国人でも住戸についてSHM Sarusun(区分所有権)を持てます。ただし第72条で最低価格・面積・保有戸数の上限・住居用途への限定といった制限があり、西ヌサ・トゥンガラ州の集合住宅の最低価格はRp10億(約890万円)です。

Q. Hak Pakaiの期間が切れたら、建物はどうなりますか?

期限内に延長・更新の手続きを行うのが基本です。延長も更新も自動ではなく申請が必要で、手続きを怠ったまま期間満了を迎えた場合の扱いは個別事情により異なります。期限が近づく前に公証人・弁護士へご相談ください。

Q. PT PMAを設立すれば、必ず不動産を保有できますか?

いいえ。PT PMAを設立してもKBLI(事業分類コード)や投資計画の内容によって、取得できる権利や事業範囲が変わります。不動産の保有・賃貸を目的とする場合は、その事業目的に対応したKBLIコードで登録し、そのKBLI・所在地ごとにRp100億超(約8,900万円/土地・建物を除く)の投資計画を満たす必要があります。設立前に専門家にご確認ください。

Q. ロンボクとバリでは、不動産投資の考え方は違いますか?

法制度そのものは同じインドネシアの国内法ですが、最低取得価格は州ごとに異なります(バリ州と西ヌサ・トゥンガラ州では金額が別に定められています)。またロンボクは、マンダリカ開発をめぐる土地収用の経緯や、証書化が進んでいない土地が残る点など、地域特有の事情があります。バリ島以上に、個別の土地のデューデリジェンスが重要になります。

まとめ|仕組みを正しく理解し、専門家の確認を省略しない

外国人がインドネシアで不動産を持つ方法は、Hak Pakaiの個人取得、PT PMAによるHGB保有、区分所有マンションのSHM Sarusun、リースホールドの4つに整理できます。土地付き物件のHak Milik(所有権)は原則として取得できませんが、HGBまたはHak Pakaiの土地に建つ区分所有マンションであればSHM Sarusunとして取得できる、という書き分けが正確です。名義借り(ノミニー)は法的に無効とされるリスクを常に抱えており、選ぶべき選択肢ではありません。

ロンボクで検討する場合は、西ヌサ・トゥンガラ州の最低取得価格(一戸建てRp30億=約2,670万円、集合住宅Rp10億=約890万円)を前提に、マンダリカ開発をめぐる土地収用の経緯や、証書化が進んでいない土地が残っている可能性も踏まえ、公証人・弁護士によるデューデリジェンスを省略しないことが何より重要です。繰り返しになりますが、この記事は一般的な制度解説であり、法務・税務の助言ではありません。実際の物件取得・法人設立・契約締結にあたっては、必ずインドネシアの弁護士・公証人(Notaris/PPAT)・税理士に個別にご相談ください。

制度を正しく理解したうえでの次の一歩としておすすめしたいのが、実際に現地を訪れてみることです。物件情報や利回りの数字だけでは、道路事情や生活インフラ、地域の雰囲気は分かりません。セコトンでの滞在プログラムでは、購入や契約を前提とせず、まずは実際の環境をご自身の目で確かめていただけます。投資を検討する第一歩として、現地滞在から始めてみませんか。

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出典

この記事が根拠にした情報(公式ソース中心)
  • JDIH BPK RI「Peraturan Pemerintah Nomor 18 Tahun 2021(PP 18/2021)」https://peraturan.bpk.go.id/Home/Details/161848/pp-no-18-tahun-2021
  • JDIH ATR/BPN「Peraturan Menteri ATR/Kepala BPN Nomor 18 Tahun 2021」https://jdih.atrbpn.go.id/peraturan/detail/1030/peraturan-menteri-agraria-dan-tata-ruang-kepala-badan-pertanahan-nasional-nomor-18-tahun-2021
  • Keputusan Menteri ATR/Kepala BPN No.1241/SK-HK.02/IX/2022(外国人向け住宅の州別最低価格。DKIジャカルタ Rp50億/Rp30億、西ヌサ・トゥンガラ州 Rp30億/Rp10億)https://www.hukumonline.com/klinik/a/wna-bisa-beli-rumah-hunian-dengan-harga-minimal-berikut-ini-lt5715b58ae2a3a/
  • JDIH BPK RI「Undang-Undang Nomor 6 Tahun 2023(Cipta Kerja。UU 11/2020・Perppu 2/2022を承継)」https://peraturan.bpk.go.id/Details/246523/uu-no-6-tahun-2023
  • 投資・下流化大臣/BKPM長官規則第5号2025年(PT PMAの払込資本金・投資計画額、LKPMの提出義務)https://oss.go.id/id/pengumuman/kewajiban-penyampaian-lkpm-periode-triwulan-iii-tahun-2025
  • OJK掲載「Undang-Undang Nomor 40 Tahun 2007 tentang Perseroan Terbatas(第68条・外部監査の要件)」https://www.ojk.go.id/sustainable-finance/id/peraturan/undang-undang/Documents/5.%20UU-40-2007%20PERSEROAN%20TERBATAS.pdf
  • Undang-Undang Nomor 1 Tahun 2022(HKPD)第41条:PBB-P2の税率上限0.5%https://peraturan.bpk.go.id/Details/195696/uu-no-1-tahun-2022
  • 財務省国有財産総局(DJKN)「Kepemilikan Tanah Bagi Warga Negara Asing Atas Tanah di Indonesia」https://www.djkn.kemenkeu.go.id/artikel/baca/15842/Kepemilikan-Tanah-Bagi-Warga-Negara-Asing-Atas-Tanah-di-Indonesia.html
  • 財務省AESIA「BPHTBとPPhの計算方法」https://aesia.kemenkeu.go.id/berita-properti/properti/cara-menghitung-bea-perolehan-hak-atas-tanah-dan-bangunan-bphtb-dan-pajak-penghasilan-atas-transaksi-jual-beli-tanah-danatau-bangunan-75.html
  • 国税総局(DJP)「Jual Beli Tanah Dibawah Rp60 juta, Free PPh Asal…」https://pajak.go.id/en/artikel/jual-beli-tanah-dibawah-rp60-juta-free-pph-asal
  • OHCHR「Indonesia: UN experts flag rights concerns over $3bln tourism project」(2021年3月)https://www.ohchr.org/en/press-releases/2021/03/indonesia-un-experts-flag-rights-concerns-over-3bln-tourism-project
  • OHCHR「Indonesia must stop forced evictions in Mandalika: UN experts」(2025年8月22日)https://www.ohchr.org/en/press-releases/2025/08/indonesia-must-stop-forced-evictions-mandalika-un-experts
  • 補償額の報道:Mongabay「U.N., rights groups flag potential violations in $3b Indonesian tourism project」(2022年5月。デ・シュッター特別報告者の2022年3月8日付書簡にもとづく報道)https://news.mongabay.com/2022/05/u-n-rights-groups-flag-potential-violations-in-3b-indonesian-tourism-project/
  • ノミニー契約の判例分析(学術誌):Jurnal Reformasi Hukum「Implications of Nominee Agreements in Land Ownership by Foreign Nationals in Bali: Case Study of Decision No. 274/Pdt.G/2020 PN Dps」https://ojs.uid.ac.id/index.php/jrh/article/view/1024
  • 為替換算:1ルピア=約0.0089円(2026年8月時点の概算)

※本記事は一般的な制度解説であり、法務・税務の助言ではありません。個別の取引・契約にあたっては、必ずインドネシアの弁護士・公証人(Notaris/PPAT)・税理士にご確認ください。

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島巡りの朝、浜に立つ人と船

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ロンボク島セコトン村の海辺に泊まる

ロンボク国際空港から車で約1時間10分。海辺のヴィラと、船頭の舟で島を巡る3泊4日の滞在プログラム。日本語で相談できます。

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